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名古屋地方裁判所 昭和38年(ワ)1843号 判決

主文

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

一、申立

原告代理人は「名古屋簡易裁判所が昭和三七年(へ)第一一一号公示催告申立事件につき、昭和三十八年八月十五日言渡した別紙目録記載株券に対する除権判決を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」旨の判決を求め、被告は主文同旨の判決を求めた。

二、請求原因

(1)  被告は昭和三十七年十二月三日名古屋簡易裁判所に対し、右株券の公示催告を申立て、その理由として、「被告は別紙目録記載株券中被告名義の株券につき、株主かつ所持人であり、その余の株券を別紙目録記載の名義人から白地裏書により譲受けてその所持人である。被告は梅村英助のために別紙目録記載株券に質権を設定し、これを同人に交付したが、同人はこれを紛失した。よつてその公示催告を求める。」と主張した。

(2)  同裁判所は公示催告の結果、権利の届出なしとして、申立により請求の趣旨記載の除権判決を言渡した。

(3)  ところで質権設定者は記名株券の所持人ではなく、その公示催告を申立てる権利がない。

(4)  梅村は右株券を紛失したものではない。即ち同人と被告との間に右質権の被担保債権三百五万余円が弁済されないときは梅村はこれを他に売却し、その代金をもつて右債権の弁済にあてることができる旨の約定が存した。梅村は右債権の弁済がないため公示催告前に原告らに右株券を売却し、原告らはこれによつて株主権を取得した。

(5)  よつて本件は公示催告手続を許す場合でないから、除権判決の取消を求める。

三、答弁

請求原因事実(1)(2)は認める。同(3)は争う。質権設定者もまた公示催告の申立権を有する。同(4)のうち約定の存することは認め、その余の事実は争う。右被担保債権は弁済ずみである。

四、立証(省略)

理由

請求原因事実(1)(2)は当事者間に争いがない。

記名株券の所持人がこれに質権を設定し、質権者に株券を交付すれば、質権設定者の株券に対する直接占有は失われるが、その余の権利は質権の限度で制限されるに過ぎず、質権の被担保債権が消滅すればこの制限も消滅し、質権設定者の権利は完全に回復する。従つて質権存続中に株券が紛失した場合、質権設定者に所持人としての公示催告申立権を与え株券による権利を行使させるのを相当とする。

しからば被告の前示質権設定者としての公示催告申立にもとづき除権判決を言渡すことは適法である。

同(4)の主張は除権判決の事実認定を争うものであつて、適法な取消事由にあたらない。

よつて原告の主張を理由なしとして棄却し、民訴法八十九条を適用して主文のとおり判決する。

別紙

目録

カスミタクシー株式会社株券(記号「い」は百株券額面五万円、記号「ろ」は十株券額面五千円である。)

〈省略〉

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